【その5】長老の館の住人、メイちゃん

メイちゃんのことをいつかはご報告しなければいけないと思いつつ、なかなか書くことができませんでした。

今年の7月5日、僕とせつさんに見守られながら、旅立ちました。

27歳でした。

もうかなり歳でしたので、病院に連れて行くよりも、自分たちで看取らなければいけないと強く思い、最後の一週間をできる限りそばにいてあげたいと思ったのでした。

メイちゃんの人生は、僕たちの人生と重なります。

会社を立ちあげて5年目。まだバブルの余韻が冷めやらぬ頃、メイちゃんは僕たちのオフィスにやってきました。

生まれつき、片目が悪く、子猫なのに、目が少し奇形に見えて、誰ももらい手がいなかったそうです。

僕はためらわず、メイちゃんをもらうことにしました。なんだか、幸せの予感がしたのです。

とにかく仕事がモーレツに忙しく、毎週、必ず徹夜を繰り返す日々でした。

そんな仕事だけの毎日の中で、メイちゃんは本当に、僕たちはもちろん、スタッフの癒やしになっていました。

午前と午後に、10人ほどのスタッフを一人一人まわって歩き、ニャーと声をかけるのが日課でした。

当時、僕とせつさんが30代の中頃。他のスタッフは全員20代という、若々しい事務所でした。

やる気と熱気と痛いくらいの思い込みだけで、突っ走っていたあの頃。

メイちゃんは一服の清涼な風を運んでくれたのでした。

その後、事務所を2回引っ越した後、この房総半島の山の中に転居してきました。

そのたびにメイちゃんも一緒に暮らすことになったのです。いい迷惑でしたね。

若かりし頃のメイちゃん。本当に性格のいい猫で、人に話しかけるのが大好きでした。

そして、みんな、張っていた気が、ほっとゆるむのです。

今でも甲高い声で鳴く、メイちゃんの「ニャー」という声が聞こえてきそうです。

房総の山の中に引っ越してきたときは、メイちゃんは15歳くらいだったのですね。

ガーデンを走り回ったりということもなく、馬小屋事務所の2階で、日々、優雅に過ごしていました。

特に冬になると、デロンギに顔をつっこんで寝るのが大好きでした。(へんですね)

それにしても、27年も一緒に暮らしていたなんて、なんて言っていいかわかりません。

僕たちの夫婦の物語をいちばん知っている猫なのです。

最後はもうほとんど何も食べることができず、日に日に痩せていくのをじっと見守るしかありませんでした。

せつさんが朝に昼に夜に、お水と柔らかい食べ物を口に持って行くのですが、ほとんど受け付けなかったです。

そんな状態なのに、トイレだけはよろよろしながらも絶対に自力で行くのです。

驚いたのは、もうほとんど動けなくなって、トイレの近くにベッドを置いて寝かせてあげたのですが、突然、ふらふらと起き上がって、何度も何度も倒れながらトイレに行くのです。

その翌朝、4時頃でしょうか。冷たくなっていました。

結局、亡くなるまで、一度も粗相をしませんでした。病院にもかかったことがありません。

最後の最後まで、人に迷惑をかけない猫だったのです。

若くてギスギスしていた僕たちを精神的に支えてくれたメイちゃん。

心からありがとうございました。

 

また湿っぽい話しになっちゃった。次回は「牛のように鳴くコモイ」です。